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【2025/10/26 07:14 】 |
【SS】覚醒
 それはつい最近にも、遠い過去の事にも思える。
 いや、正確には思い出しくないけど、覚えていなくてはならない。
 そんな思い出……いや、出来事。
 それは突然の出来事だった。永遠と言う名の平穏。
 そんな当たり前の時間はいつまでも続くと思っていた。
 だけど、現実はそんな甘い幻想なんかじゃない。

 ただの地獄だった。


「キサ、勉強進んでる?」
 居間のソファーに座って読書に励む弟に後ろからそっと声をかける。
 私の声に反応してか、ゆっくりと振り向く弟の顔に、ふわりと私の髪がかかる。それが面白くて私がクスリと笑えば、弟も照れ隠しに微笑む。
「ん……それなりにかな。思ってたよりかは何とかなりそうかも」
「大丈夫、キサなら立派な星霊術士になれるよ」
 とびっきりの笑顔で手を取れば、目の前の同じ顔が綻んで行く。凄く難しそうな顔してたから、本当は芳しくなかったのだろう。いつも思うけど、キサは嘘が下手だと思う。
 ……キサに言わせれば、私も嘘が下手らしいけど……
 うーん、何か悔しい。悔しいから苛めよう。
 ぎゅー
 そんな効果音がしそうなくらい頬を引っ張ると、流石に弟も怒ったのかやや乱暴に腕を振りほどこうとする。
「しょ、なにふるんだよ」
「いや、何言ってるか分からないからー」
 ぎゅーぎゅー
 一通り遊んで手を放せば、恨めしそうな視線を向けながらもすぐにいつもの表情に戻る。
 弟はいつもこうだった。
 良く、双子は仲が良いと言われる。私たちだってけして仲は悪くない。いや、良い方なんだろう。
 でも……何かが違うと思う事がある。
 それが何かは自分でもわかってない。わかっていないけど……違うんだ。
 この関係は仲の良い姉弟なのか、それとも作られたモノなのか。
 パズルの最後のピースだけはまっていない……そんな不安定な何かを感じる時がある。
 ふと視線を戻せば弟がきょとんとした顔でこっちを見ていた。どうやら考え事をし過ぎたみたいだ。うん、私の悪いクセその一。
「レイ、どうかしたか?」
「ううん、何でもない」
 私が肩まで伸びた髪をでんでん太鼓のように振って首を振れば、弟も微笑んでそれ以上は何も言わなかった。
 それはいつもの他愛も無いやり取りだった。
 頃合を見て、お母さんが切り分けたケーキを運び、お父さんが紅茶を淹れる。
 そんないつも通りの日常。
 変わらないと思っていた平穏は、ある日あっさりと崩れた。
 いつもより騒がしい外の騒音。それは、この小さな村には不釣合いなほどの騒がしさだった。
「……ちょっと待っててな」
 お父さんが真剣な顔をしてアイスレイピアを持ち、ドアを開ける。
 そこに広がるのはただの地獄だった。   
 逃げ惑う大勢の人、それを追いかけ回すモノ。
「逃げろ!」
 その一言で何か察したのだろうか。お母さんが私と弟の手を引き、裏口へ駆ける。
 お父さん!
 確かに私はそう叫ぼうと振り返った。
 その時、お父さんの足元に一つのボールが転がっていった。
 ごろごろ。
 ごろごろ。
 それは、隣の友達が足でやるスポーツだと言ってたボールと同じ大きさだろうか。
 そこで私は初めて知った。
 ニンゲンのアタマがそのボールと同じくらいの大きさだって事に。

 その時の事は良く覚えていない。
 
 ただ、私とキサは地下室に連れて来られていた。
「-----------!」
 お母さんが何か言ってる気がする。
 良く分からないけど大丈夫、キサは私が守るから。
 私はお姉ちゃんだから、キサを守らないと。
 扉が閉まる。
 暗い、淀んだ空間の中に、私とキサは居る。
「大丈夫だから、大丈夫だから……」
 私は、吐き気と自分の中に何かを堪えるようにずっとキサを抱えていた。
 途中、キサの手が私の耳を覆い隠す。
 それだけで安心感に満たされる。
 
 どれだけそこに居たのだろう。
 それは、数時間かも知れないし、数十分だったかも知れない。
 突然視界に入る光。
 それが、扉が開いた事による光だと言う事に気がついたのは、背中に熱い痛みが走った直後だった。
 私の手から飛び出すキサ。
 その時、私にはキサしか見えていなかった。だから、私が思った事はただ一つ。
「(キサ、キサまでいかないで!)」
 キサによるぬくもりが無くなった時、私の意識は遠い闇の奥へと落ちていった。

 目が覚めて初めて視界に入ったのはキサの顔だった。
 いや、それは少し違う。
 見えたのは、キサの瞳の奥に写る未来。
 キサが体内のデモンに憑き殺される未来だった。
 何故だか分からないが、私にはそれが未来の事だと分かる。
「疲れてるんだよ、もう少し休みな」
 キサは優しく微笑むと私に毛布をかけ直してくれる。
 ううん、嘘。本当はキサの方が疲れてる。
 私には分かる。キサは嘘が下手だから……。
 キサが部屋から出た後、私は部屋にあった包丁を手に取った。
 そう言えば、お母さん料理中だったっけ。
 あれ? 料理に包丁って使うんだっけ?
 この場に落ちてるソレは、どう見ても殺戮の道具にしか見えない。
「ま、いいか」 
 私はそれで自分の髪をバッサリと切った。
 これで髪の長さはキサと同じくらい。後でしっかり揃えればキサとまったく同じになるだろう。
 大丈夫、キサに何かあったら今度は私が絶対に守ってあげるから。
 キサは最後の家族で、大事な半身なんだから。

 例え、私の命に代えても。 それが、私のエンドブレイカーになる切っ掛けだった。

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【2010/09/25 01:02 】 | SS | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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